真空蒸着の原理
真空中で物質に膜を付ける方法で、スパッタより前に実用化された成膜技術です。スパッタより簡素でわかりやすい原理です。
- 膜を付ける試料と膜の原料を容器内におく。(スパッタと違い距離を離す)
- 全体を真空状態にして、原料を熱で溶かす。(蒸発させる。)
- 原料が気体分子となり、試料に衝突、付着し、膜が形成される。
熱溶解の方法によって、抵抗加熱式、電子ビーム式、高周波誘導式、レーザー式などがある。
原料分子が試料に達する前に残存気体分子に衝突しない為、また、気体分子自体が試料に衝突しない様、スパッタ(数 Pa )より高い真空度(10-3~10-4 Pa )が必要。
真空蒸着の歴史
光学部品の発展に関わった技術ですが、ビデオテープ、食品の包装材、装飾用などにも使用されています。
- 1857年に「ファラデーの法則」で有名なマイケル・ファラデーが最初に行ったとされる。
- 1930年代に油拡散ポンプが実用化され、レンズの反射防止膜作成が真空蒸着で行われる様になる。
- 第2次世界大戦で、光学部品の需要が高まり発展。
- 日本でもカラーテレビ放送やカメラの生産で需要が高まり、光学部品の多層反射防止膜は真空蒸着で作製されるのが当たり前となった。電子ビーム蒸着によって高融点素材へ応用が広まった事が大きい。
- 分子線蒸着やイオンプレーティングへ発展。
- 大形基板には、スパッタが利用される様になった。
真空蒸着の特徴
方式によっても違いますが、一般に下記の様な特徴があります。
- 成膜速度が速い(スッパタより数倍速い)
- 分子のエネルギーが小さいので、付着力は弱い(イオンで加速する装置もある)
- 装置の構造が簡単
- 一般に高融点の原料には向かない(抵抗加熱式)
- 原料蒸発源が点であることが多く、大面積には向かない
- シャッターなどで膜厚制御が容易
- 高真空中で純度の高い成膜が行える
- るつぼ(蒸発源)から不純物が混入することがある(電子ビーム蒸着では少ない)
- 蒸発の際に組成が変化することがある
- スパッタのようなプラズマによる試料の損傷がない
真空蒸着装置の構成
方式によっても変わりますが、基本的な装置の構成は、次の様になります。
- 真空容器(釣り鐘型容器はベルジャー [ bell jar ] と呼ばれます)
- 排気装置(油拡散ポンプ+ロータリーポンプ、または、ターボ分子ポンプ+ロータリーポンプ。ターボ分子ポンプ式では排気手順が簡易)
- フィラメント(ボート状の物もある)
膜厚制御のため、シャッター、膜厚モニターが取り付けられる事が多い。
基板加熱装置で生成される膜の性質を変える事もあります。