スパッタの原理
物質に膜を付ける方法で、メッキなどとは違い薬品を使わず真空中で行います。(半導体製造では、ウェットプロセスに対しドライプロセスという。)
- 膜を付ける試料と膜の原料(ターゲット)を近くにおく。
- 全体を真空状態にして、試料とターゲットの間に電圧をかける。
- 電子やイオンが高速移動し、イオンがターゲットに衝突する。高速移動した電子やイオンは、気体分子に衝突し、分子の電子をはじき飛ばし、さらにイオンとなる。
- ターゲットに衝突したイオンは、ターゲットの粒子をはじき飛ばす。(スパッタリング現象)
- はじき飛ばされた原料の粒子が試料に衝突、付着し、膜が形成される。
スパッタの歴史
意外に古くから現象は知られていましたが、実用化は比較的最近です。詳細は「リンク」にある参考文献をご覧下さい。
- 1852年、イギリス人科学者グローブによってスパッタ現象が発見された。このころは放電管が汚れる原因として、如何にスパッタを少なくするかが重要であった。グローブは燃料電池最初の実験者として有名。
- 第二次世界大戦時に光学部品の反射防止膜の需要が伸び、真空装置も進歩した。
- スパッタによる成膜技術は主にアメリカで1960年代以降に利用され始めた。(最初の商用電子顕微鏡は1965年につくられた。)
- スパッタ現象は成膜形成技術の前に、イオンポンプとして応用された。(スパッタで気体分子を電極に取込 み、より高い真空を得る。)
スパッタの語源
擬音語ですが、真空で起こる現象になぜこの語を与えたのでしょう?
- [ splutter ] がこの現象に与えられた最初の語とされる。「つばを飛ばす」「咳をする」など音をたてて、何かをまき散らすことやその音を意味する。辞書によっては「ぶつぶつ音を出す」ともあり、スパッタの意味としてこれを採用しているところも多い。
- 現在、英語として使用されている [ sputter ] は splutter の同義語。
- スパッタリング [ sputtering ] は [ sputter ] の現在進行形。「スパッタする事」として名詞で使用されていますが、[ sputter ] も名詞として使用されます。
- 「ターゲットが小さな破裂でまき散らされている」イメージです。
成膜法の分類
スパッタや真空蒸着は物理現象を利用した成膜法ですが、化学反応を利用するCVDもあります。
- CVD [ Chemical Vapor Deposition] 化学気相成長法。試料を気体原料の雰囲気内におき、化学反応によって、試料表面に薄膜を形成する方法です。炭化ケイ素膜がよく知られていますが、金属や有機高分子などでも利用されています。特徴は高純度の膜が形成できる事です。
- これに対して真空蒸着やスパッタは、PVD [ Physical Vapor Deposition] 物理気相成長法とよばれています。膜が形成されるのは、蒸発やスパッタによって、粒子になった原料が試料に付着することで、化学反応は関与しません。
スパッタの特徴
成膜法として、以下の様な特徴があります。
- 膜の原料となる粒子の持つエネルギーが大きく、試料への付着力が大きい。強い膜ができる
- 合金系や化合物のなど、原料の組成比を変えずに成膜ができる
- 蒸着では困難な、高融点原料でも成膜が可能
- 膜厚が時間だけで高精度に制御可能
- 反応性ガスを導入することで,酸化物、窒化物の成膜も可能 6: 大面積でも均一に成膜ができる
- ターゲットの場所に試料を置く事でエッチングができる
- 成膜速度は全般に遅い(方式によって違う)
色々なスパッタ方式
原理で紹介したのは、DCスパッタですが、欠点を補う様々な方法が考案されています。代表的なものに、以下のスパッタ方法があります。
- DCスパッタ – 直流電圧を2つの電極の間にかける方法
- RFスパッタ – 交流(高周波)をかける方法
- マグネトロンスパッタ – ターゲット側に磁石で磁界をつくり、プラズマを試料から分離する方法
- イオンビーム・スパッタ – イオンをターゲットや試料と別の場所でつくり、ターゲットに加速してあてる方法。
その他にも、対向ターゲット、ECR(電子サイクロトロン)や半導体製造で使用されるコリメート、遠距離法などもある。また、マグネトロン方式にも、ターゲットの形状や磁石の配置を変えた色々な方法が開発されている。
DCスパッタ
最初に考え出されたスパッタ法です。DC スパッタは構造が簡単など利点が多いのですが、以下の問題があります。
- グロー放電を起こす必要があり、装置の中は、比較的真空度が低く、残留ガスの影響がある。具体的には、膜がガスと反応したり、膜の中にガスが閉じこめられる。
- 気体がイオンと電子に分かれたプラズマ状態になっており、試料も高温のプラズマにさらされる。温度上昇などで損傷をうける。
- 原料(ターゲット)が絶縁物の場合には、表面にイオンが堆積し、放電が止まってしまう。
RFスパッタ
絶縁物のターゲットを使用するため交流(高周波)をかける方法。
- ターゲットと試料を近くにおきます。
- 真空チャンバーとターゲットに高周波電圧をかけます。
- 交流なので、粒子の加速方向は電圧に合わせて変わります。
- 電子とイオンでは電子の方が軽くて移動しやすいため、導電性のチャンバーに到達した電子は回路に流れます。
- ターゲット側の電子は逃げ場所がなく密度が高くなります。
- 結果的にターゲット側がマイナスにバイアスされ、イオンがターゲットに引き寄せられスパッタすることができます。
マグネトロンスパッタ
DCスパッタでのプラズマの影響を低減させる方法です。プラズマをターゲット付近に封じ込めるためスパッタ速度も速くなります。
- 試料と裏に磁石を配置したターゲットを近くにおきます。
- 電圧をかけてスパッタをおこないます。
- 磁界によって、電子は磁力線にそって、螺旋状に運動します。
- プラズマは電子の周りに発生し、集中的にスパッタすることが可能です。
特徴
高周波でも使用できる/プラズマが試料付近にできずダメージを受けない/スパッタ量が多い
欠点
ターゲットの減り方にムラができる。
イオンビームスパッタ
掲載した4つの中で、唯一、放電を使用しない方法です。
イオン銃(イオン発生器で発生させたイオンを加速して放出する装置)から放出されたイオンはターゲットに照射されスパッタします。DC スパッタなどは、プラズマのなかでイオンや電子などいろいろな粒子の影響を受けますが、スパッタに利用したいイオンだけを使う方式です。イオン銃には持続的にイオンを発生させるため不活性ガスが供給されます。(原料自体をイオン化して直接試料にぶつけるのはイオンプレーティングと呼ばれます。)
特徴
放電でプラズマを作る必要がないので、高真空中でも可能(不純物が混ざらない)/イオン源が独立していて、条件設定が容易/ターゲットの導電性によらない
欠点
装置が複雑で高価になる/成膜速度は速くない
スパッタ装置の構成
方式によって違いますが、イオンビームスパッタをのぞき、ほぼ同一です。
- 真空チャンバ(ガス導入口、試料取り出し口 [ Quick Coaterでは操作しやすい前面扉を採用 ])
- 排気装置(ロータリーポンプ:放電させるのであまり高真空は必要ない)
- 試料台(サンユー電子では出し入れが頻繁に行われる試料台を下側としています。)
- ターゲット装着台
- 電源(高周波、高圧電源など)
- 制御装置
Quick Coater SC Series では上記の要素が一体まとめられ、本体とポンプを接続するだけで使用できます。
スパッタの利用法
RFスッパタなどの発展により、金属だけでなくいろいろな物質の膜ができるので、広範囲に利用されています。
- 磁気ディスク(垂直磁気記録媒体の生成)
- CD/DVD(記録面の金属膜)
- 半導体(回路の生成。メモリー [ 強誘電体膜 ] 、各種センサー)
- 磁気ヘッド(高密度記録用ハードディスク用。多層膜を使用する最新のヘッド)
- インクジェットプリンターヘッド
- 液晶表示装置(透明電極の生成)
- 有機EL表示装置(透明電極の生成)
- 高輝度LED
- 電子顕微鏡用試料作成(導電性膜により帯電防止)
- 光触媒薄膜
- 分析(成膜ではなく、スパッタでとばされた表面の物質を特定する。)
- ナノマシン(形状記憶合金膜)
- プラスチックやガラスなどへの電磁遮蔽膜生成